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平成27年度 日本結晶成長学会賞受賞者紹介 第10回業績賞および赤�� 勇賞・第32回論文賞・第22回技術賞・第13回奨励賞

第10回業績賞および赤�� 勇賞 [受賞者] 天野　浩（名古屋大学大学院工学研究科電子情報システム専攻・教授） [受賞題目] 「高品質窒化物半導体の創出と青色・紫外光素子の実現」 [受賞理由] 　天野浩会員は，赤�風E名誉会員と緊密な連携のもと，GaN単結晶の成長という困難な課題に挑戦し，MOVPE法を用いてサファイア基板の上に低温緩衝層を堆積させることで，1985年に高品質GaN単結晶の成長に成功した．引き続き，p型の作製に取り組み，Mgをアクセプター不純物として用いることで，1989年にはp型のGaNの作製に成功した．ただちにpn接合の作製へと進み，世界で初めてpn接合による発光に成功など次々と世界的成果を生み出してきた．天野会員は紫外光デバイスの分野においても窒化物半導体を用いた発光素子と検出器の作製に関する多くの成果を発表した．これらの高品質窒化物半導体の創出と光素子の実現は世界的に広く認められ，2014年ノーベル物理学賞の受賞に至った．この受賞歴からも明らかなように，天野氏の研究業績が，結晶成長の基礎科学分野の発展に大きく寄与したことは，疑問の余地は無く，本会業績賞および赤�風E賞にふさわしいと判断した．

第32回論文賞 [受賞者] 今井　宏明（慶應義塾大学理工学部応用化学科・教授） [受賞題目] 「メソ結晶におけるねじれ形態発現機構の解明とその制御」 [受賞対象論文] (中心となる業績:論文6) 1.　Y. Oaki and H. Imai “The hierarchical architecture of nacre and its mimetic material” Angewandte Chemie-International Edition 44 (2005) 6571-6575 【主論文】2.　H. Imai and Y. Oaki “Emergence of morphological chirality with twinned crystals” Angewandte Chemie-International Edition 43 (2004) 1363-1368 3.　Y. Oaki and H. Imai “Amplification of chirality from molecules into morphology of crystals through molecular recognition” Journal of the American Chemical Society 126 (2004) 9271-9275 4.　S. Ibe, R. Ise, Y. Oaki, and H. Imai “Twisted Growth of Organic Crystal in Polymer Matrix: Sigmoidal and Helical Morphologies of Pyrene” CrysEngComm 14 (2012) 7444-7449 5.　D. Tokutomi, R. Ise, Y. Oaki, and H. Imai “Spontaneous Formation of 2D Micropatterns with Straight and/or Curving Dendrites through Crystal Growth of Ba(NO3)2 in Polymer Matrix” Crystal Growth & Design 13 (2013) 3011-3017 6.　S. Ibaraki, R. Ise, K. Ishimori, Y. Oaki, G. Sazaki, E. Yokoyama, K. Tsukamoto, and H. Imai “Oscillatory Growth for Twisting Crystal” Chemical Communications 51 (2015) 8516-8519 [受賞理由] 　今井宏明会員は，これまで単結晶と考えられてきたバイオミネラルが方位を揃えて配列した結晶ブロックの配列体（＝メソ結晶）であることをナノ構造解析によって明らかにし，有機分子に制御された結晶成長によってその人工合成が可能であることを示した（業績1）．また，構造の解明が不十分であったねじれ結晶をメソ結晶の観点から解析し，微細なブロックが回転しながら一次元的に集積することでマクロなねじれが形成されることを明らかにした（業績2）．さらに，そのメカニズムを利用しキラル分子の添加によって結晶のマクロなねじれ方向を任意に制御することに成功した（業績3）．このような方位を揃えたブロック結晶の集積にもとづく形態形成は，有機結晶のねじれ（業績4）や無機結晶の湾曲状形態（業績5）においても見出され，バイオミネラルのような多様な形を自発的に作り出すプロセスとして広く有効な結晶成長機構であることを示した．さらに，ねじれ形態が形成される成長先端のその場観察に成功し，有機分子マトリクス中における濃度と成長速度の振動によって結晶ブロックの集積構造が形成されることを明らかにした（業績6）． 　これらの研究のポイントは，(1)バイオミネラルが方位を揃えたブロックの集積体（＝メソ結晶）であることの発見，(2)ねじれなどの特異な結晶形態が一次元的なメソ結晶成長により発現されることの発見，(3)ねじれ結晶におけるブロック形成がマトリクスとの相互作用による振動成長に起因することの発見である．ここから，(4)有機分子やマトリクスとの相互作用に基づくメソ結晶の成長機構を解明し，多様な結晶の形態を自発的に形成する能動的プロセスを実現している．このようなメソ結晶の概念やねじれ形態に関する独創的な学理の解明は，ボトムアッププロセスによる新たな機能材料の開発などの応用面において極めて重要であるとともに，結晶成長学の発展に大きく寄与するものである．以上のことから本会論文賞にふさわしいと判断する．

第22回技術賞 [受賞者] 三宅　秀人（三重大学大学院地域イノベーション 学研究科・教授） 福山　博之（東北大学多元物質科学研究所・教授） [受賞題目] 「サファイア基板上への高品質窒化アルミニウム成長技術」 [受賞理由] 　AlGaNを用いた紫外発光素子(UV-LED)は，蛍光灯の代替，高密度DVD，生化学用レーザー，光触媒による公害物質の分解，He-Cdレーザー，水銀灯の代替など次世代光源として幅広く注目されている．現在AlGaN紫外発光素子用の基板として，格子定数が近く，波長200 nmまでの紫外光を透過できるバルクAlN単結晶基板の開発が精力的に勧められている．しかしながら，このバルクAlN単結晶は高価でありUV-LEDの大量生産を考えると基板材料としては不向きである．三宅秀人会員および福山博之会員は，AlN単結晶基板に替わる高品質AlN/サファイア基板を独自に開発した．サファイアは6インチサイズのウェハ−が安価に入手できる状況にあるので，受賞者らの高品質AlN/サファイアテンプレートの作製技術は貫通転位密度を低く抑えたUV-LEDを安価に作製・生産するために極めて有用である．具体的には，(1)有機金属気相成長(MOVPE)法によりサファイア基板上にAlN緩衝層を堆積し，(2)N2-CO混合ガス中で高温(＞1500 ℃)アニールすることにより欠陥密度を低減させ，(3)その上に高温MOVPEにより高品質AlNテンプレートを堆積する一連の成長技術である．この成長技術はUV-LEDの生産・低コスト化に資する極めて有用な結晶成長技術であり，今後の学術および産業の発展に対する貢献が大いに期待できるため，技術賞を授与するにふさわしいと判断した．

第13回奨励賞 [受賞者] 三浦　均（名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・准教授） [受賞題目] 「不純物を含む溶液成長におけるカタストロフィーの発見」 [受賞対象論文] (中心となる業績:論文2) 1.　H. Miura and K. Tsukamoto “Role of Impurity on Growth Hysteresis and Oscillatory Growth of Crystals” Crystal Growth & Design 13 (2013) 3588-3595 2.　H. Miura and R. Kobayashi “Phase-Field Modeling of Step Dynamics on Growing Crystal Surface : Direct Integration of Growth Units to Step Front” Crystal Growth & Design 15 (2015) 2165-2175 [受賞理由] 　三浦均会員は，結晶成長速度の急激な変化が，カタストロフィー理論における状態量の不連続変化に類似している点に着目し，古典的なステップ・ピニング効果の式およびテラス露出時間と吸着不純物密度の関係式を組み合わせてステップ前進速度の定常解を解析的に導出し，ある過飽和度領域においてステップ前進速度の安定解が2つ存在することを明らかにした．これにより，過飽和度のわずかな変化によってステップ前進速度が不連続的に変化する「カタストロフィック変化」が生じることが示唆され，「ヒステリシス現象」と「周期的振動現象」が生じる物理的理由を明快に説明することができた．また，受賞者は，数値計算によるカタストロフィック変化の実証を目的として，ステップへの成長ユニット直接取り込み機構に基づいたステップ・ダイナミクスの定量的数値計算法を新しく開発した． 　三浦均会員は，結晶成長における不純物効果の理論的研究において新しいモデルを提案し，かつ，それを実証するための数値計算法の開発に主体的に取り組んでおり，今後の結晶成長学の発展に寄与することが大きく期待できるので，日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した． [受賞者] 新家　寛正（大阪大学工学研究科電気電子情報工学専攻・日本学術振興会特別研究員 PD） [受賞題目] 「NaClO3 結晶化における掌性発現過程に関する研究」 [受賞対象論文] (中心となる業績:論文3) 1.　Hiromasa Niinomi, Tomoya Yamazaki, Shunta Harada, Toru Ujihara, Hitoshi Miura, Yuki Kimura, Takahiro Kuribayashi, Makio Uwaha, and Katsuo Tsukamoto “Achiral Metastable Crystals of Sodium Chlorate Forming Prior to Chiral Crystals in Solution Growth” Crystal Growth & Design 13 (2013) 5188-5192 2.　Hiromasa Niinomi, Atsushi Horio, Shunta Harada, Toru Ujihara, Hitoshi Miura, Yuki Kimura, and Katsuo Tsukamoto “Solubility measurement of a metastable archiral crystal of sodium chlorate in solution growth” Jouurnal of Crystal Growth 394 (2014) 106-111 3.　Hiromasa Niinomi, Hitoshi Miura, Yuki Kimura, Makio Uwaha, Hiroyasu Katsuno, Shunta Harada, Toru Ujihara, and Katsuo Tsukamoto “Emergence and Amplification of Chirality via Achiral-Chiral Polymorphic Transformation in Sodium Chlorate Solution Growth” Crystal Growth & Design 14 (2014) 3596-3602 [受賞理由] 　水溶液からのNaClO3キラル結晶化におけるキラリティ決定過程解明は，医薬物質の光学分割や地球上のホモキラリティ問題等に知見を与える．従来，結晶の利き手は１次核形成の段階で既に決定しているとする固定概念に近い考え方が主流であった．これに対し新家寛正会員は，結晶化初期においてアキラルな前駆体が現れることをその場観察法により明らかにし，核形成直後の結晶は“両利き”であることを示した．さらに，前駆体の多形転移様式に依存し，利き手の決定が異なることを示した．特に，キラル結晶が前駆体へ接近した場合，利き手が引き継がれることを明らかにし，この様式がキラリティ対称性の破れを誘起する可能 性を示した．また，この現象を前駆体近傍の局所的な過飽和度分布に起因する，液相媒介相転移における成長速度律速/溶解速度律速の変化で説明した．本研究は，非古典的核形成現象および自発的なキラリティ発現を結晶成長学的観点から結びつけるだけでなく，多形現象に関する基礎的で新しい現象を見出している．よって，受賞者は奨励賞受賞に値すると判断される．