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平成20年度 日本結晶成長学会賞受賞者紹介
第3回業績賞・第25回論文賞・第15回技術賞・第6回奨励賞


第3回業績賞
[受賞者] 砂川一郎(東北大学名誉教授)
[受賞課題] 「結晶成長機構の解明を基にした地球・宇宙科学研究の推進」
[受賞理由]  受賞者は1960年位相差光学顕微鏡と多重くりかえし形干渉計を用いて、世界に先駆けて鉱物ヘマタイト
Fe2O3{0001}面上の渦巻きパターンの単位格子半分の高さである0.23nmのステップ観察に成功し、結晶
の表面観察及び内部の転位などの結晶欠陥の観察から、成長の歴史である結晶成長過程を解析する
研究を始め、その後、結晶構造変化のその場観察に光学手法を用いる方式を発展させた。さらに、結晶
成長機構の理解の基に、複雑・複合系である地球・宇宙科学の諸問題の動的解析に力を尽くし、地球・
宇宙科学研究を推進させた。これは、平衡論が基礎であったそれまでの地球・宇宙科学に新しい視点を
提供するものである。
 また、受賞者は研究者が泊まりこみで議論する研究会の必要性と結晶成長基礎の理論家と産業応用
の実験家との交流の必要性を実感し、結晶成長討論会(通称放談会)を創設し、1974年から15年近くその
校長を務め、結晶成長分野での若い研究者を育てることにも貢献した。また日本結晶成長学会第2代会
長を務め、結晶成長国際会議(ICCG-9)の組織委員長として会議を成功させ、永年にわたって日本結晶
成長学会の発展に貢献した。
 以上のように、受賞者は、結晶成長学において先駆的業績を挙げるとともに、日本結晶成長学会の発展
に顕著な業績を挙げたことは、日本結晶成長学会業績賞を受賞するに相応しいと判断した。


第25回論文賞
[受賞者] 灘 浩樹(産業技術総合研究所)
[受賞課題] 「新しい水分子ポテンシャルモデルの開発とこれに基づく一連の氷結晶成長機構の
分子レベルの解明」
[受賞理由]  受賞者は我々に身近で学問上も実用上も極めて重要な氷結晶に対し、その表面・界面及び結晶成長
の分子動力学シミュレーション研究に関する一連の業績を挙げた。
 まず、氷と水の構造及びそれらの相平衡を定量的に再現する水分子間相互作用モデルの開発
に世界で初めて成功した。さらに、この水分子モデルを用いたシミュレーションにより、氷の表面・界面
構造と成長機構及びそれらの異方性、ガスハイドレードの成長機構を分子レベルで明らかにした。これ
らの研究により、氷の成長形の理解や温暖化ガス・エネルギーガスのハイドレート化現象、生体水の不
凍現象の解明に大きく貢献した。
 以上のように、受賞者は、環境・エネルギーや生命科学分野などの氷結晶が関係したさまざまな重要
問題に対し、計算機シミュレーションによるアプローチの道を切り開き、結晶成長学の将来の進むべき
道のひとつを示し、結晶成長学の発展に大きく寄与した。そしてこれらの研究成果は、J.Chem.Phys.をは
じめ、国際的に著名な多くの専門誌に掲載されたので、日本結晶成長学会論文賞を受賞するに相応し
いと判断した。

[受賞者] 天野 浩(名城大学)
[受賞課題] 「窒化物半導体の結晶成長とデバイス応用に関する研究」
[受賞理由]  受賞者は窒化物半導体産業の基盤となる先駆的研究に加え、窒化物半導体発光素子の長波長化・
高効率化で現在問題となっているピエゾ電界による量子シュタルク効果についても実験的かつ理論的
にも実証し、デバイス高性能化への指針となる学術的な業績をあげた。
 まず、発光層として重要なInGaN/GaNヘテロ接合においてInGaN層が下地GaN層とコヒーレントに成長
していることを実験的に示し、量子シュタルク効果を議論できることを示した。さらに、InGaNの量子井戸
層に加わる歪みから圧電電界の理論的な算出に加え、電界印加によるPL波長依存性から量子シュタ
ルク効果を実験的に実証した。これらの研究によりピエゾ効果を回避する量子井戸の設計指針や結晶
成長制御、さらには非極性面や半極性面上の結晶成長など学術上の貢献ばかりではなく産業上への
技術的貢献が大きい。
 以上のように、受賞者は窒化物半導体発光素子の高性能化のため量子シュタルク効果を卓越した結
晶成長技術から実証し、多くの研究者に影響を与えるとともに結晶成長学の発展に寄与した。そしてこれ
らの研究成果は、Jpn.J.Appl.Phys.をはじめ、国際的に著名な多くの専門誌に掲載されたので、日本結
晶成長学会論文賞を受賞するに相応しいと判断した。


第15回技術賞
[受賞者] 安達宏明1、森 勇介2、佐々木孝友2、高野和文2(1(株)創晶)、2大阪大学) 
[受賞課題] 「タンパク質の新しい結晶成長技術の開発」
[受賞理由]  受賞者らは、電気工学分野とバイオ分野の異分野研究者同士が連携して、革新的なタンパク質結晶
化技術を創出し、ベンチャーを設立し、事業化を成功させた。
 無機・有機の光学結晶成長で培われた、溶液攪拌による高品質化技術とレーザー照射による結晶核
発生技術を生命科学研究で求められているタンパク質結晶の育成に用いることを思いついた。これらの
手法は、タンパク質科学の分野では極めて非常識なものであったが、タンパク質の結晶育成にも、極め
て有効であることを世界に先駆けて次々に明らかにしてきた。さらに、創薬・製薬分野でこの画期的な
結晶化技術を活用してもらうために、2005年に製薬企業等を対象としたタンパク質結晶化の受託事業を
行う「(株)創晶」を設立した。事業としても順調なことに加え、中性子線構造解析のための大型結晶作
製や医薬候補化合物となる有機低分子結晶への展開も積極的に進め、本技術は学術的・産業的に大
いに活用されている。
 以上のように、本技術開発は、異分野連携のお手本であり、またビジネスとしても大学発ベンチャーの
進むべき方向を示すものであり、日本発の優れた創造的かつ実用的な業績を挙げたことは、結晶成長
技術の進展に大きく貢献しており、日本結晶成長学会技術賞を受賞するに相応しいと判断した。



第6回奨励賞
[受賞者] 長嶋 剣(大阪大学)
[受賞課題] 「ガスジェット浮遊法による隕石結晶組織の研究」
[受賞理由]  受賞者は天体望遠鏡の世界であった惑星科学に、メルトの浮遊法を活用した結晶成長の研究をもた
らし、マテリアルサイエンスが活躍する場として確立する努力をしている。
 実験的に隕石の結晶組織を作る研究に取り組み、まず、従来から行われてきた方法が、容器壁から
の核形成を無視できず適切でないことを結晶成長学の立場から指摘し、ガスジェット浮遊装置を作成
して実験を行い、その指摘が正しかったことを証明した。また実験結果に基づき、新たな隕石形成モデ
ルを提案し、惑星科学でこれまで軽視されてきた核形成の重要性を説いている。
 以上のように、若手研究者(現在34歳)である受賞者が、天文の世界に顕微鏡を導入するなど、結晶
成長学に留まらず、広範な分野に影響を与え、またこれらの研究成果が、J. Cryst. Growth等著名な
学術誌に掲載されたことは、今後結晶成長分野に新たな風を吹き込むことに貢献することが期待でき
るので、日本結晶成長学会奨励賞を受賞するに相応しいと判断した。

[受賞者] 木村 勇気(北海道大学)
[受賞課題] 「ダストの成長と構造に関する実験室からのアプローチ」
[受賞理由]  受賞者は、近年観測精度の向上にともなって、実験室のダスト精製・構造・物性に関して急展開して
いる、成長を視野に入れた宇宙鉱物学において、ダスト創製と今後の惑星固体粒子に関する実験室実
験の重要性を示し、惑星進化の基礎を担う研究を行っている。
 まずシリケートについて、質量に依存しない酸素の同位体分別を示す鉱物の微粒子の生成に成功し、
ダストの成長とともに同位体分別も議論できることを明らかにした。次にピロタイトの成長に関して、鉄
粒子と硫黄粒子の固相反応で生成できることを示した。さらに酸化カルシウムにおいては、若い星で観
察される6.8μmの赤外線バンドに関して、有機物以外に無機物で説明できることを初めて実証した。
 以上のように、若手研究者(現在32歳)である受賞者が、結晶成長の基礎研究が今後発展すべき方向
性を示し、またこれらの研究成果が、The Astrophysical Journal等著名な学術誌に掲載されたことは、
今後の惑星固体粒子学の発展に貢献することが期待できるので、日本結晶成長学会奨励賞を受賞す
るに相応しいと判断した。