平成22年度日本結晶成長学会賞受賞者紹介

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平成22年度日本結晶成長学会賞受賞者紹介
第5回業績賞・第27回論文賞・第17回技術賞・第8回奨励賞

第5回業績賞および赤﨑勇賞
[受賞者]	佐々木孝友（大阪大学名誉教授、大阪大学光科学センター特任教授）
[受賞課題]	「非線形光学結晶の育成と機能性結晶への展開」
[受賞理由]	受賞者は、波長変換により紫外レーザー光を効率良く発生するボレート系非線形光学結晶CsLiB₆O₁₀ （CLBO）を1993年に発見した。高粘性融液のため高品質化が困難であったCLBO結晶を、独自の新しい結晶育成方法の開発により高レーザー耐力化に成功し、また、産学連携により世界最高出力の266nm 光、213nm光や193nm光の発生に成功した。これらの成果は、半導体部品の微細加工や検査光源の実用化に貢献している。　その他にも世界最大のKH₂PO₄結晶の育成技術、CsB₃0₅、K₂Al₂B₂O₇、Gd_xY_1-xCa₄O(BO₃)₃などの新規ボレート系非線形光学結晶や、LAP、MNONS、DAST結晶等の有機非線形光学結晶の研究開発にも成功し、DAST結晶はテラヘルツ光源用に実用化されている。　また、受賞者は、非線形光学結晶で開発した高品質結晶化技術を、タンパク質やGaN結晶の溶液成長にも展開し、難結晶化タンパク質の高品質結晶化技術開発やNaフラックス法により、2～4インチサイズの高品質GaN結晶の育成にも成功している。　これらに加えて、日本結晶成長学会と人工結晶工学会の統合に尽力され、基礎研究から実用結晶成長までを包含する学会を我が国に創成された功績も大きい。　以上のように、受賞者が、結晶成長学において先駆的業績を上げるとともに、日本結晶成長学会の発展に顕著な業績を挙げたことは、日本結晶成長学会業績賞を受賞するに相応しいと判断した。

第27回論文賞
[受賞者]	嘉数誠（日本電信電話株式会社）
[受賞課題]	「有機金属気相成長素過程の研究と高効率窒化アルミニウム素子への応用」
[受賞理由]	有機金属気相成長法（MOCVD）は、窒化物半導体はじめ化合物半導体素子作製のため最も重要な結晶成長技術であるが、分子線エピタキシ（MBE）の場合のようなその場観察が容易ではないため原子スケールでの成長機構の研究は困難であった。しかし、受賞者は、MOCVD成長直後表面を保護する事により、成長室に直結した超高真空走査型トンネル顕微鏡等を用いて成長表面を原子スケールで観察するという独創的な方法を開発し、成長中の二次元核形成やステップパンチング等の観察に成功した。その結果をモンテカルロシミュレーションで再現することにより、MOCVDの表面拡散係数を求めるとともに、巨大ステップ間隔の飽和現象等MOCVDのメカニズムを明らかにした。　その知見を、直接遷移型で大きな禁制帯幅を持つ窒化アルミニウム（AlN）結晶成長に応用し、AlN成長初期の二次元核融合時における小傾角粒界形成を起源とする貫通転位を、核形成密度を減らすことにより大幅に低減する事に成功した。これにより、AlN成長層の高純度、n型、およびp型成長技術を確立し、波長210nm電流注入紫外発光ダイオードの実現に成功した。　以上のように、受賞者によるMOCVDの成長素機構に関するこれらの成果は、結晶成長学の基礎の発展に大きく寄与するとともに、この一連の研究で培われた実験的手段は、MOCVDの結晶成長学にも極めて大きく貢献するものである。またこれらの研究成果が、Journal of Crystal Growth, Natureをはじめ、国際的に著名な多くの専門誌に掲載されたので、日本結晶成長学会論文賞を受賞するに相応しいと判断した。
[受賞者]	木下恭一（独立行政法人　宇宙航空研究開発機構）
[受賞課題]	「TLZ法開発と均一組成バルク混晶育成への応用」
[受賞理由]	受賞者は、Traveling Liquidus Zone（TLZ）法という新しい結晶成長方法を開発し、In_1-xGa_xAsやSi_1-x Gexなどの混晶育成に応用して、均一組成で高品質な単結晶育成に成功した。また、TLZ法で育成した結晶の高品質性をIn_0.13Ga_0.87Asを基板とする半導体レーザーの作製により実証した。均一組成を持つ混晶結晶の育成は、非常に困難である。受賞者は、成長界面で溶質の濃度勾配を制御することが非常に重要であることに着目し、部分的に溶融したメルト中の溶質濃度をほぼ液相線上の濃度に保ちながらゾーンを移動させるTLZ法を考案し、均質な混晶結晶の作製に成功した。液相線上では、自由度が1つ減り温度により濃度が一義的に定まるので、温度勾配により濃度勾配が定まることになる。温度勾配と成長速度の関係を示すTLZ法モデル式を提案し、モデル式により計算される成長速度に合わせて試料（あるいはヒ一夕）を移動させることにより均一組成が達成できることを示した。さらに、 TLZ法における組成的過冷却の防止方法や融液中の対流抑制方法などを提案し、TLZ法を実用的な結晶成長法にまで発展させた。　以上のように、受賞者は、液相線に沿った濃度勾配を利用するといった熱力学的に極めて明快で新しい結晶成長方法を開発し、結晶成長学の発展に大いに貢献した。これらの研究成果は、Journal of Crystal Growthをはじめ、国際的に著名な多くの専門誌に掲載されており、日本結晶成長学会論文賞を受賞するに相応しいと判断した。

第17回技術賞
[受賞者]	梅野正義^１、江川　孝志^２(^１名古屋工業大学名誉教授、中部大学客員教授、 ^２名古屋工業大学教授、極微デバイス機能システム研究センター長)
[受賞課題]	「MOCVD装置及びSi上化合物半導体成長技術の開発」
[受賞理由]	梅野正義名誉教授（現在中部大学客員教授）は、長年に亘って半導体の光電変換デバイスの研究を行い、多くの論文を発表し、多くの研究者と技術者そして教育者を育成してきた。　中でも、発光デバイス等に有望な結晶成長法として、早くから有機金属気相成長（MOCVD）技術に着目し、産学連携が唱えられる以前から、日本酸素（現・大陽日酸）との共同研究を通して、MOCVD技術の完成度を上げてきた。そして、日本の多くの企業（シャープ、NTT、デンソ一等10数社）、米国インテル社等を指導し、その研究員を受け入れて研究指導するなど、国際的にもMOCVD研究者を育ててきた。　このMOCVD技術により、ガリウムヒ素等の化合物半導体をシリコン基板上に異種結晶成長（ヘテロエピタキシャル）に成功し、発光ダイオード、レーザー、電子デバイスおよび超高効率太陽電池等に有望であることを明らかにした。またそれらの成果をもとに平成5年4月に学内に文部省令研究施設「極微構造デバイス研究センター」を設置し、現在の「極微デバイス機能システム研究センター」に至っている。　また、江川孝志教授は梅野正義名誉教授とともにMOCVD法を用いたSi基板上のGaAsヘテロエピタキシャル成長及び光電子デバイスへの応用に関する研究を行ない、歪超格子、熱サイクルアニールやAl を含む材料などの中間層を捏案し、活性層への貫通転位密度を低減させ、Si基板上のGaAs系レーザーとしては世界で始めて全MOCVDプロセスでの室温連続発振に成功した。　また、超極薄のAlN層を用いた成長技術を開発することにより高品質GaN膜をSi基板上に成長し、Si基板の選択除去及び張り合わせ技術を用いて、GaN系発光ダイオードの動作電圧を3.6Vと大幅に低減し、外部取り出し効率を改善した。この技術を用いてサンケン電気㈱はSi基板上GaN系LEDを実用化した。　Si基板上のAlGaN／GaN HEMTをスイッチング素子などのパワーデバイスに応用する場合、大口径Si 基板上に厚膜の結晶成長を行う必要がある。江川孝志教授は、大陽日酸㈱と量産型GaN用MOCVD装置の開発を行うとともに、歪超格子構造による格子歪を用いて熱歪を緩和させ9μmの厚膜化、1813V の高耐圧化に成功した。この技術はDOWAエレクトロニクス㈱に技術移転され、窒化物専用工場を建設され、世界中に販売を行っている。　以上のように、受賞者らは、MOCVD装置開発、Si基板上GaAsの成長とデバイス応用及びGaNヘテロエピタキシャル成長技術及び光・電子デバイスに関する先導的研究を行い、その研究成果の一部は産業界で実用化されている。このように、受賞者らは、MOCVD装置及び Si上化合物半導体成長技術の開発分野において学会および産業界に大きく貢献しており、日本結晶成長学会賞（第17回技術賞）を受賞するに相応しいと判断した。

第8回奨励賞
[受賞者]	山下基（立命館大学総合工学研究機構）
[受賞課題]	「高分子結晶成長における負のエントロピー効果の実証」
[受賞理由]	受賞者は、高分子結晶の構造乱れのエントロピーを熱力学量として検出・定量化することにより、 TurnbullとSpaepenによって予言された、結晶成長における“負のエントロピー”効果（negentropy）を実証した。　高分子結晶は分子鎖の立体構造とその構造乱れの違いによって多様な結晶多形を示す。とりわけ構造乱れは個々の多形の物性を大きく左右する極めて重要な因子であるが、構造乱れの効果を考慮しない従来の高分子結晶成長の標準理論では、多形間の成長機構の違いを説明できなかった。候補者はエチル側鎖の構造乱れの有無によって不安定晶（正方晶）と安定晶（三方晶）の2つの結晶多形を示すポリブテン（PB）に着目し、2つの多形のメルト成長機構を比較した。構造乱れを無視する標準理論では、 2つの多形の表面核形成の自由エネルギー障壁は同じ値をとることが要求される。ところがPBでは構造乱れのある不安定晶のみが標準理論に従うのに対して、構造乱れのない安定晶では側鎖の構造乱れエントロピーの不足分だけ核形成障壁が理論値に比べて高くなることを発見し、“負のエントロピー”効果を実証した。これにより標準理論では説明できなかった、結晶多形間の成長機構の違いを側鎖のエントロピー効果で記述することに成功した。以上のように、若手研究者（現在３７歳）である受賞者は、結晶成長学に構造乱れという新しい切り口を見出した。またこれらの成果がJournal of Polymer Science， Journal of Crystal Growth等著名な学術誌に掲載されたことは、今後の結晶成長学の発展に寄与することが大きく期待できるので、日本結晶成長学会奨励賞を受賞するに相応しいと判断した。
[受賞者]	高　冰(Bing Gao)（九州大学応用力学研究所）
[受賞課題]	「結晶シリコン中の不純物制御に関する基礎研究」
[受賞理由]	受賞者は、現在社会問題となっている環境とエネルギーの分野で興味深い、太陽電池用シリコン多結晶の結晶成長に関し、不純物制御に関する新規な知見を得ている。まず、一方向性凝固法によるシリコン多結晶の製造において、太陽電池の変換効率に影響を与える酸素と炭素の不純物濃度を決定する要因が、シリコン原料のみの濃度では決定されず、結晶成長プロセスの一つであるアルゴンガスの対流現象であることを数値計算と実験の両方から定量的に明らかにした。さらに、この問題を解決する方法として、一方向性凝固炉の設計とそれに伴う酸素と炭素の低減についてシミュレーションを行い、不純物問題が解決可能な手法を積極的に提案しており、また、結晶成長学にとっても普遍的な結論を提示していることが特徴である。さらに、実験への具体的な提案を行っており、実際の結晶成長で数値シミュレーションと同じ実験結果が得られている点も特徴である。　以上の論文は、若手研究者(現在３１歳)である受賞者が中心になって行った研究の成果の一部である。このように、受賞者は、国内外の多くの研究者から認められる数値解析と実験の技能を有しており、将来、結晶成長学の進歩発展に極めて大きく貢献することが期待できるので、日本結晶成長学会奨励賞を受賞するに相応しいと判断した。