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2020年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第15回業績賞および赤﨑 勇賞・第37回論文賞・第27回技術賞・第18回奨励賞

第15回業績賞および赤ア 勇賞

受賞者
古川 義純
古川 義純 Yoshinori Furukawa
 北海道大学 低温科学研究所 名誉教授
 Professor Emeritus, Institute of Low Temperature Science,
 Hokkaido University
受賞題目
「雪・氷結晶の成長機構に関する実験的研究」
Experimental study for growth mechanism of snow and ice crystals
受賞理由
 古川義純会員は,雪・氷結晶に関する実験的研究により結晶成長学の発展に顕著な業績を挙げた.その中心となるものが,氷結晶表面での表面融解の高分解偏光解析による研究である.氷の表面融解は,19世紀のファラディや20世紀後半に黒田によって理論的には予想されていたが,古川会員が初めて融点直下の氷結晶表面に擬似液体層の存在を直接的に実証し,この現象の本質を明らかにした.表面融解は,融点に近い温度環境ではどのような結晶でも普遍的に起きる表面構造相転移であり,結晶の成長機構や形態だけでなくその物性や完全性にも大きな影響を与えるきわめて重要な現象である.さらに,地上から国際宇宙ステーションの微小重力環境までさまざまな条件下で,氷結晶の形態形成や不純物効果に関する多くの先駆的実験を行い,多大な成果を挙げた.特に,不凍タンパク質による氷結晶成長制御の研究は,生体内の結晶成長機構の解明にも大きな貢献を果たしている.これらの雪と氷に関する実験的研究を通じ,気相,液相,メルトなど特に融点近傍のさまざまな環境で育つ結晶に対する結晶成長機構の解明に貢献した.
さらに,雪や氷の結晶成長は地球表面や惑星空間で普遍的に起きる現象であり,地球の気候や環境問題,惑星系の起源などとも深く関連する.古川会員は,これらの諸問題との関連を常に意識した視点で研究を推進し,結晶成長学の新たな展開を図った.
以上のことから,古川会員は本会業績賞および赤ア勇賞にふさわしいと判断した.

第37回論文賞

該当者なし

第27回技術賞

受賞者
 北村 寿朗 
  鈴木 貴征 

 柴田 真佐知 
 吉田 丈洋 
鈴木 貴征 Takayuki Suzuki
 株式会社サイオクス    
 SCIOCS Company Limited
北村 寿朗 Toshiro Kitamura
 株式会社サイオクス    
 SCIOCS Company Limited
吉田 丈洋 Takehiro Yoshida
 株式会社サイオクス    
 SCIOCS Company Limited
柴田 真佐知 Masatomo Shibata
 株式会社サイオクス    
 SCIOCS Company Limited
受賞題目
「VAS法による高均一低欠陥GaN基板の量産技術開発」
Development of mass production technology for highly uniform and low defect density Gallium Nitride substrates by Void-Assisted-Separation method
受賞理由
 サイオクス社のGaN単結晶基板は,同社が独自開発したVAS法により製造されている.VAS法は,他社の製法と比較して,成長界面がフラットなまま結晶成長が進行し,かつ,成長後に結晶が下地基板から自然剥離するという特徴を有しており,基板面内の転位密度,電気特性,オフ角の分布が均一で,デバイスメーカにおけるエピ成長,プロセス加工時の歩留りが高い.このため,2003年の販売開始以来,市場から高い評価を受け,レーザーダイオード用GaN基板市場でトップシェアを継続しており,現在,GaNパワーデバイスの開発需要にも大きく貢献している.候補者らは,GaN結晶の量産技術開発時から一貫して,多数枚同時,厚膜結晶成長技術の開発に従事,同社独自設計の大型量産用HVPE炉を用い,歩留りの高い低転位結晶の成長技術を確立した.また,GaN基板の評価,研磨加工技術の開発に携わり,基板性能の向上,量産体制の確立にも貢献した.以上の理由から,日本結晶成長学会技術賞を受賞するにふさわしいと判断した.

第18回奨励賞

受賞者
  川西 咲子 
川西 咲子  Sakiko Kawanishi
 東北大学 多元物質科学研究所 助教
 Assistant Professor, Institute of Multidisciplinary Research
 for Advanced Materials, Tohoku University
受賞題目
「SiCの高温溶液成長界面のその場観察」
In-situ observation of high-temperature SiC solution growth
受賞対象論文
“In-situ Interface Observation of 3C-SiC Nucleation on Basal Planes of 4H-SiC during Solution Growth of SiC from Molten Fe-Si Alloy”, Sakiko Kawanishi* and Takeshi Yoshikawa JOM, 70(7), 1239-1247, (2018).
受賞理由
 川西咲子会員は,省エネパワー半導体材料のシリコンカーバイド(SiC)単結晶の溶液成長研究を行い,溶液系の熱力学的な検討ならびに高温での溶液成長ダイナミクスの解明に取り組んできた.とりわけ,SiCが高温でも可視光透過性を有することを利用して,SiCが合金溶液から成長する際の成長界面を,光学顕微鏡を用いて最高1700℃の高温下で直接観察する手法の開発に精力的に取り組んできた.高温界面におけるらせん成長やステップフロー成長の観察と成長ステップのナノ計測の精度検証,および,2次元核生成モデルによる多形変化に関する定量的な議論を行っており,高温界面のその場観察と界面物性計測への応用を実現した.これらの成果は,川西会員が試料加熱系・観察系の開発および科学的検討の双方において主体的に取り組んで得られたものである.以上,川西会員は高温溶液成長における熱力学・界面物性研究とその場観察による結晶成長の基礎研究に精力的に取り組み,将来の結晶成長学の発展への貢献が大いに期待されることから,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.

受賞者
鈴木 凌
鈴木 凌 Ryo Suzuki
 横浜市立大学 理学部 助教
 Assistant Professor, Department of Science, Yokohama City University
受賞題目
「タンパク質結晶の動力学的回折の観測」
Observation of dynamical diffraction in protein crystals
受賞対象論文
“Analysis of oscillatory rocking curve by dynamical diffraction in protein crystals”, Ryo Suzuki*, Haruhiko Koizumi, Keiichi Hirano, Takashi Kumasaka, Kenichi Kojima, Masaru Tachibana, Proceedings of the National Academy of Science USA, 115, 3634-3639, (2018).
受賞理由
 鈴木凌会員は,タンパク質結晶におけるX線動力学的回折現象の観測に初めて成功した.これまでにも,世界中で様々な手法による高品質なタンパク質結晶の育成が行われてきた.しかしながら,Siのような高品質な結晶で見られるようなX線動力学的回折がタンパク質結晶では観測されておらず,その品質が依然としてSiのような高品質な結晶に比べて劣るのか,そもそも観察されないのか,タンパク質結晶のX線動力学的回折現象の観察は長年の課題であった.鈴木氏はタンパク質の一種であるグルコースイソメラーゼ結晶を用いて,ロッキングカーブの振動現象の観察に初めて成功した.さらに,動力学的回折理論に基づいた定量的な解析に成功し,この振動現象がX線の動力学的回折によるものであることを明らかにした.本研究における振動現象の発見およびその精密な解析はすべて鈴木氏によるものであり,その論文はPNAS誌に掲載され,大きく注目されている.鈴木氏の研究成果は,タンパク質結晶の高精度な品質評価法としても重要であり,今後の結晶成長学の発展にも大きな貢献が期待できる.以上の理由から,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.