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2022年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第17回業績賞および赤﨑 勇賞・第39回論文賞・第29回技術賞・第20回奨励賞

第17回業績賞および赤ア 勇賞

該当者なし

第39回論文賞

受賞者
勝野 弘康
伏屋 雄紀
伏屋 雄紀  Yuki Fuseya
 電気通信大学大学院 准教授
 Associate Professor,
 The University of Electro-Communications
勝野 弘康  Hiroyasu Katsuno
 北海道大学低温科学研究所 博士研究員
 Postdoctral Research Fellow, Hokkaido University
受賞題目
「チューリング理論に基づいた原子スケールの自発的パターン形成機構の解明」
Spontaneous pattern formation at the atomic scale based on Turing theory
受賞対象論文
Nanoscale Turing patterns in a bismuth monolayer, Y. Fuseya, H. Katsuno, K. Behnia and A. Kapitulnik, Nature Physics (査読有), 17, 1031-1036 (2021).
その他対象業績
〈伏屋〉(スピントロニクス材料やトポロジカル物質(バルク・薄膜)の物性研究など)
  1. "Transport Properties and Diamagnetism of Dirac Electrons in Bismuth"(招待総説論文), Y. Fuseya*, M. Ogata and H. Fukuyama, J. Phys. Soc. Jpn.(査読有), 84, 012001 (22pages) (2015)
  2. "Nonperturbative Matrix Mechanics Approach to Spin-Split Landau Levels and the g Factor in Spin-Orbit Coupled Solids", Y. Izaki and Y. Fuseya*, Phys. Rev. Lett.(査読有), 123, 156403 (5pages) (2019)
  3. "Analytical Solutions for the Surface States of Bi1-xSbx", Y. Fuseya*and H. Fukuyama, J. Phys. Soc. Jpn.(査読有), 87, 044710 (10pages) (2018)
  4. “Origin of the Large Anisotropic g Factor of Holes in Bismuth”, Y. Fuseya*, Z. Zhu, B. Fauque, W. Kang, B. Lenoir and K. Behnia, Phys. Rev. Lett.(査読有), 115, 216401 (5pages) (2015)
  5. 文部科学大臣表彰・若手科学者賞「固体中ディラック電子系における量子輸送現象の理論的研究」(2015)
  6. 凝縮系科学賞「固体中ディラック電子系の量子輸送現象の理論的研究」(2013)
  7. 電気通信大学学長表彰(2018)
  8. 大阪大学飛翔研究フェロー「固体中ディラック電子によるエネルギー効率の高い伝導機構の開発」(2010)
  9. 井上学術奨励賞「強相関電子系における奇態な超伝導:有機化合物と重い電子系化合物」(2005)
〈勝野〉(結晶成長における自発的構造形成の研究など)
  1. “Fast Improvement of TEM Images with Low-Dose Electrons by Deep Learning”, H. Katsuno*, Y. Kimura, T. Yamazaki and I. Takigawa, Microsc. Microanal.(査読有), 28, 138-144 (2022)
  2. "Anomalous Size Distribution of Chiral Crystals during Deracemization by Grinding", H. Katsuno* and M. Uwaha, Cryst. Growth Des.(査読有), 19, 2428-2433 (2019)
  3. "Heteroepitaxial Growth with Dislocations in Two-Dimensional Elastic Lattice Model", H. Katsuno*, M. Uwaha and Y. Saito, Surf. Sci.(査読有), 602, 3461-3466 (2008)
  4. "Misfit Dislocations in a Two-Dimensional Lattice Model", H. Katsuno*, M. Uwaha and Y. Saito, J. Phys. Soc. Jpn.(査読有), 76, 044605 (10pages) (2007)
  5. 日本成長学会奨励賞「エピタキシャル系の転移と結晶表面形態の理論的研究」(2014)
  6. 日本結晶成長学会若手講演奨励賞「ヘテロエピタキシャル系における吸着物結晶のミスフィット転移を含む平衡状態」(2006)
  7. 日本結晶成長学会若手講演奨励賞「ミスフィット転移間の弾性相互作用」(2005)
【参考】
  • "Tiniest Turing patterns found in atomically thin bismuth", Chemistry World, 2021/07/14 (英国王立化学会誌)
  • "Turing Patterns Turn Up in a Tiny Crystal", QuantaMagazine, 2021/08/10 (米・一般向けオンライン誌)
  • "Des atomes qui se mettent en bandes", pour la Science, 2021/09(仏・一般向け科学雑誌)
  • 「単原子膜に縞模様,超薄膜 歩留まりよく作製」日刊工業新聞,23面,2021/07/13
  • 「熱帯魚の模様は原子の世界にもあった!?」子供の科学 KoKaNet, 2021/08/28
受賞理由
 伏屋雄紀会員と勝野弘康会員は,ヘテロエピタキシャル成長のビスマス単原子層で見られる微細な凹凸パターンがチューリング・パターンとして形成されていることを世界で初めて証明した.チューリング・パターンは生物模様,化学物質組成,合金組成のような物質を対象としてマイクロメートルからセンチメートルの大きさで発現することが知られていた.伏屋会員と勝野会員は,ナノメートルサイズのチューリング・パターンを発見した.これは,チューリング理論が生物学,化学,物理学などの学術分野の枠を超えて,これまで考えられていたものよりずっと多くの対象で成り立つことを強く示唆している.
 伏屋会員と勝野会員は,ビスマスの電子状態の特異性を考慮しつつ形態形成に重要な要因を抽出することでパターン形成機構を数理的に説明し,シミュレーションによって数理模型の有効性を示すことに成功した.原子スケールで自発的に形成されるパターンであり,パターンの創傷治癒も確認されていることから,微細な構造形成制御にも利用できる可能性を秘めている.原子スケールの構造形成の新しい学理を切り開いた本成果は,結晶成長学の発展に大きく貢献するものであり,日本結晶成長学会論文賞を受賞するにふさわしいと判断した.

第29回技術賞

受賞者
 宮本 晃男 
 浅井 翔太 
 中野目 慎一 
 駒井 雅昭 
  長田 隼弥 
長田 隼弥 Junya Osada
 株式会社オキサイド
 OXIDE Corporation
浅井 翔太 Shota Asai
 株式会社オキサイド
 OXIDE Corporation
宮本 晃男 Akio Miyamoto
 株式会社オキサイド
 OXIDE Corporation
駒井 雅昭 Masaaki Komai
 株式会社オキサイド
 OXIDE Corporation
中野目 慎一 Shinichi Nakanome
 株式会社オキサイド
 OXIDE Corporation
受賞題目
「最先端PET用 LGSO単結晶の量産技術の確立」
Establishment of mass-production technology for LGSO single crystal for most-advanced PET
受賞対象発表
ELIMINATION OF CRACKS IN LGSO SCINTILLATION SINGLE CRYSTALS DURING CRYSTAL GROWTH, Junya Osada, S. Asai, S. Takekawa, A. Miyamoto and H. Ishibashi, 19th International Conference on Crystal Growth and Epitaxy (ICCGE-19), July 28 - August 2, 2019, Keystone, Colorado, USA
Cz法による LGSO大型 結晶 育成 に おいて発生するクラックの除去 , 長田隼弥 , 浅井翔太 , 竹川俊二 , 宮本晃男 , 石橋浩之 , 第 48回 結晶成長国内会議 (JCCG-48), October 30-November 01, 2019.
受賞理由
 Ce添加Lu2-xGdxSiO5(以下LGSO)は,単斜晶系に属する融点約2100℃の単結晶でCZ法で育成する.LGSOはX線やγ線等の放射線が入射すると高出力,高速で発光する優れたシンチレータ材料である.(株)オキサイドにおけるLGSOシンチレータ事業は2015年に日立化成(株)から事業譲渡を受けて開始した事業であるが,当時のLGSOインゴットは割れがあり製品の採取歩留りが低いことが最大の問題であった.そこで長田隼弥会員,浅井翔太会員,宮本晃男会員,駒井雅昭会員,中野目慎一会員は,結晶育成シミュレーションを活用した炉構造等の育成条件の最適化を進め,割れの無い寸法約φ100×300mm,重量約15kgの大型結晶を再現良く育成することに成功した.その結果,製品採取歩留りは3倍以上,性能も大幅に向上した.現在LGSOはがんの早期診断に用いられる最先端画像診断装置PET(Positron Emission Tomography)に採用され,年間売上げは約19億円となり,世界中のがん患者の救済に貢献している.
 以上の理由から,日本結晶成長学会技術賞を受賞するにふさわしいと判断した.

第20回奨励賞

受賞者
  金子 健太郎 
金子 健太郎  Kentaro Kaneko
 立命館大学 教授
 Professor, Ritsumeikan University
受賞題目
「超ワイドバンドギャップp型酸化物結晶の開拓」
An explorer of ultra-wide bandgap p-type oxide crystals
受賞対象論文
“Novel p-type oxides with corundum structure for gallium oxide electronics”, K. Kaneko and S. Fujita, Journal of Materials Research(査読有), 37, 651-659 (2022)
受賞理由
 金子健太郎会員は,貴金属であるイリジウムの準安定相酸化物を合成し,新しい超ワイドバンドギャップp型半導体の開拓に成功した. 次世代の光電子デバイス応用を目指して巨大なバンドギャップをもつ酸化物材料が次々と開発されているが,ほとんどの酸化物の価電子帯は酸素の2p軌道で構成されているため正孔の発生が困難であり,仮に正孔が生まれてもその拡散長はきわめて短い.そのため有意な移動度をもつp型酸化物材料は非常に少ない.一方で,広範なデバイス応用のためにはp型層の開拓が不可欠であり,バンドギャップ値の拡大と導電性の経験的なトレードオフも相まって,不可避でありながら困難な課題であった.金子会員は,ワイドギャップ半導体の中で薄膜成長が非常に困難である酸化イリジウム(α-Ir2O3)に着目し,その薄膜の合成に初めて成功した.α-Ir2O3は結晶の合成例がきわめて少ないため,格子長や定量的な電気特性が不明であったが,それらを明らかにし,酸化イリジウムのp型層としての有意性を示した.さらに,α-Ga2O3との混晶化により4.2 eVのバンドギャップをもつp型α-(Ir,Ga)2O3の合成も達成し,α-Ga2O3とのpn接合を作製して良好なデバイス特性を得た.酸化ガリウムはドーピングによる有意な移動度をもつp型層の作製が困難であるため,α-Ga2O3と同じ結晶構造をもつp型層の開拓は非常に大きなインパクトをもたらした.
 以上の理由から,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.


受賞者
宇佐美 茂佳
宇佐美 茂佳 Shigeyoshi Usami
 大阪大学 助教
 Assistant Professor, Osaka University
受賞題目
「GaN縦型pnダイオードの転位解析によるリーク電流の低減」
Reduction of leakage current by dislocation analysis of GaN vertical pn diodes
受賞対象論文
“Correlation between dislocations and leakage current of pn diodes on a free-standing GaN substrate”, Shigeyoshi Usami, Yuto Ando, Atsushi Tanaka, Kentaro, Yoshihiro Sugawara, Yong-Zhao Yao and Yukari Ishikawa, Applied Physics Letters(査読有),112, pp182106-1 182106-4, 2018.
“Correlation between nanopipes formed from screw dislocations during homoepitaxial growth by metal-organic vapor-phase epitaxy and reverse leakage current in vertical p?n diodes on a free-standing GaN substrates”, Shigeyoshi Usami, Atsushi Tanaka, Hayata Fukushima, Yuto Ando, Manato Deki, Shugo Nitta, Yoshio Honda, and Hiroshi Amano, Japanese Journal of Applied Physics(査読有), 58, pp SCCB24-1 SCCB24-10, 2019.
受賞理由
 宇佐美茂佳会員は,次世代パワーデバイス材料として注目される窒化ガリウムにおいて,パワーデバイスの基本要素であるpnダイオードの逆方向リーク電流が螺旋転位およびナノパイプによって引き起こされることを初めて突き止めた.これまでGaN系pnダイオードにおいて貫通転位がリークパスとなることはわかっていたが,転位の種類までは特定されていなかった.転位種解析のためにはリークパスとなる貫通転位位置の特定が必須となるが,pnダイオードは結晶内部のpn接合界面に電界最大の点を持つことから従来の表面接触式の手法では位置特定が困難であった.それに対して,宇佐美会員は電流リーク箇所で微弱な発光が生じることを利用し,高電界印加時の発光像を取得することでリーク位置を特定し,詳細なTEM評価によって螺旋転位とナノパイプの一部がリークパスとなることを明らかにした.また,候補者は同評価手法によって,基板中に含まれる螺旋転位が結晶成長中に変換してナノパイプを生じること,ナノパイプへの変換は結晶成長条件によって抑制可能であることを明らかにし,pnダイオードのリーク電流を劇的に低減することに成功した.本成果は,高信頼性の求められるパワーデバイス用途において重要な知見である.
 以上より,候補者は結晶成長と電気特性を結びつける評価技術を有しており,今後の結晶成長学の発展に大いに貢献するものと期待できるため,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.


受賞者
釣 優香
釣 優香 Yuka Tsuri
 奈良先端科学技術大学院大学 日本学術振興会特別研究員PD
 JSPS Research Fellow PD, Nara Institute of Science and Technology
受賞題目
「低分子有機化合物の結晶化制御と相転移のその場観察」
Polymorph control and in-situ observation of phase transformation of organic molecules
受賞対象論文
“Intergrowth of two aspirin polymorphism observed with Raman spectroscopy”, Yuka Tsuri, Mihoko Maruyama, Hiroshi Y. Yoshikawa, Shino Okada, Hiroaki Adachi, Kazufumi Takano, Katsuo Tsukamoto, Masayuki Imanishi, Masashi Yoshimura and Yusuke Mori, Journal of Crystal Growth(査読有), 532, 125430 (2020).
受賞理由
 釣優香会員は,短パルスレーザーを用いた結晶化技術を適用し,極めて結晶多形制御が困難な化合物のモデル材料として,アスピリン(解熱鎮痛剤)の準安定形単結晶作製に初めて成功した.従来のレーザー照射方法では,アスピリンは準安定形のみが得られないという問題に対して,釣会員は成長過程の詳細観察によって,核形成した準安定形表面には安定形が成長することを発見し,「結晶化初期には準安定形のみの状態で存在する」という今までのモデル材料とは異なる相転移様式を明らかにした.この現象は結晶の外形変化を伴わないため,気づくことが困難であったことから,釣会員は細やかにレーザーチューニング(パワー,パルス幅,照射時間など)することで,核形成頻度を制御して単一の純粋なアスピリン準安定形結晶化を実現した.医薬品開発のみならず,材料分野においてもアスピリンのような「構造が酷似しているが存在する多形」の発見は重要であり,釣会員が構築した多形制御戦略は新たな多形発見につながることが期待される.
 以上の理由から,今後の結晶成長学の発展に対するさらなる貢献が期待でき,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.