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2024年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第19回業績賞および赤ア 勇賞・第2回産業功績賞・第41回論文賞・第31回技術賞・第22回奨励賞

第19回業績賞および赤ア 勇賞

受賞者
竹田 美和
竹田 美和  Yoshikazu Takeda
 名古屋大学 名誉教授・
 あいちシンクロトロン光センター 名誉所長,特別フェロー
 Professor Emeritus, Director Emeritus, and Distinguished Fellow,
 Nagoya University and Aichi Synchrotron Radiation Center
受賞題目
「放射光によるエピタキシャル層の成長機構と物性の解明」
Study on Growth Mechanism and Properties of Heteroepitaxial Layers Using Synchrotron Radiation
受賞理由
 竹田美和会員は,半世紀前に開催のNCCG-7において,「液相エピタキシャル法によるInP基板上InGaAs高品質結晶」を報告して以降,InGaAs(P)の優れた物性を明らかにし,様々なデバイスを提案・実現した.これらの成果は後の特定研究「混晶エレクトロ二クスの研究」(1985-1988年度)へと繋がり,我が国の半導体研究の大きい分野となると共に世界のこの分野を牽引した.1980年代当初は「結晶成長」と「放射光」の繋がりは殆どなかったが,「原子レベル構造」と「材料の特性」を繋ぐ手法として放射光を用いたEXAFS法を展開した.現在では材料開発において放射光が必須のツールとなっている.
 具体例として,XAFSにより不純物原子の活性化機構・発光機構を明らかにした.この希薄元素のXAFS測定は,排ガス触媒,Li-イオン電池,全固体電池等の開発に必須の手法として多用されている.ヘテロ成長とX線CTR散乱では,成長後の埋もれた界面構造を明らかにし,MOVPE成長における急峻なヘテロ界面形成のための様々な知見を提供した.これらの知見を活かしたスピン偏極電子源の開発では,GaP基板上にGaAs/GaAsP歪み補償超格子を形成して正孔バンドを分離させ,高スピン偏極電子(偏極度92%:従来値の3倍)を得ることに成功した.その輝度は従来の104倍の圧倒的世界記録で,JJAP論文賞となった.この電子源は次世代Linear Colliderに用いられ,また,超高輝度電子源として名大発ベンチャーが製作・販売している.
 竹田美和会員は会誌の編集委員長及び第11代会長として本学会の編集委員会と運営組織の抜本的改革,会誌の電子化や赤ア 勇賞の創設などを行った.社会に貢献し持続できる学会となっている.

第2回産業功績賞

応募者なし

第41回論文賞

受賞者
  船戸 充 
船戸 充 Mitsuru Funato
 京都大学 准教授
 Associate Professor, Kyoto University
受賞題目
「AlN分子ステップ上に形成したGaN一次元ナノ構造への励起子の閉じ込め」
Confinement of Excitons within GaN 1D Nanoarchitectures Formed on AlN Molecular Steps
受賞対象論文
"Confinement of Excitons within GaN 1D Nanoarchitectures Formed on AlN Molecular Steps", Mitsuru Funato*, Hirotsugu Kobayashi, Yoichi Kawakami, Advanced Optical Materials, 12, 2302506, (2024).
受賞理由
 船戸充会員は,受賞対象論文において,窒化物半導体AlNとGaNによる量子構造を作製する際,界面での分子ステップを利用するとサブnmのごく微小な量子閉じ込め構造が形成できること,さらにそれが量子細線として機能することを初めて実証した.窒化物半導体は紫外〜可視域での光デバイス用材料として注目されている.材料の誘電率が小さいことから励起子の束縛エネルギーが大きく,励起子の特性を活かしつつ室温以上で動作する励起子光デバイスへの応用が期待されている.一方で,この強い励起子束縛エネルギーと相反してボーア半径が小さくなるため,ボーア半径程度に励起子を閉じ込める低次元量子構造の結晶成長は困難となる.受賞論文では,船戸充会員がこれまで見出してきた自己組織的なGaN単分子層(~0.25 nm)の結晶成長条件を活かし,分子ステップをもったAlN上にその条件下でGaNを形成している.この際,分子ステップ端においてのみGaN分子層が二分子層に,その他の平坦部分では一分子層になることから,ステップ端においてのみサブnmのごく微小な量子閉じ込め構造が形成できることを見出した.このスケールはGaNやAlNのボーア半径(2~3nm)以下であり,これにより,初めて量子閉じ込めとそれに起因した光学異方性を実験的に示すことに成功した.この成果は,単分子ステップにおける極微な量子構造の創成という極限的な結晶成長技術の開発によるものであり,日本結晶成長学会論文賞を受賞するに値すると判断した.

第31回技術賞

応募者なし

第22回奨励賞

受賞者
  村上 力輝斗 
村上 力輝斗 Rikito Murakami
 東北大学 助教
 Assistant Professor, Tohoku University
受賞題目
「Dewetting μ-PD法による単結晶合金線材の形状制御クライテリアの解明」
Clarification of Shape Control Criteria in Single Crystal Alloy Wires by the Dewetting μ-PD Method
受賞対象論文
"Investigation of Crystal Shape Controllability in the Micro-Pulling-Down Method for Low-Wettability Systems", Rikito Murakami*, Katsunari Oikawa, Kei Kamada, Akira Yoshikawa, ACS Omega, 6, 8131-8141, (2021).
受賞理由
 村上力輝斗会員は濡れ性の低い系におけるマイクロ引き下げ(Dewetting μ-PD法)に関して,結晶育成条件と結晶形状の関係性を明らかにし,当該技術の産業応用を可能とした.Dewetting μ-PD法では,凝固界面を観察できないため形状制御が困難であり,<±10μmの実用線径公差を維持しつつ長尺結晶を作製することは極めて困難と考えられてきた.これに対し村上力輝斗会員は,無次元Young-Laplace方程式を用いて達成され得るメニスカス形状をマップ化することで変数間の関係性を求め,任意の結晶径を得るための条件を導いた.さらに,実験的に達成される結晶径と理論値との乖離が,前進接触角の動的変化に由来することを指摘し,当該理論に基づき装置開発を行うことで,難加工性材料として知られるIr合金やRu合金の長尺線材化を実現した.村上力輝斗会員は当該成果により,熱起電力ドリフトが極めて少ない単結晶熱電対や,有機ELの真空蒸着用高効率・長寿命Ru基抵抗加熱線といった製品の社会実装に成功している.これらの業績は,結晶育成技術の工業利用の可能性を広げる重要な成果であるために,奨励賞受賞に相応しいと判断した.