会長のごあいさつ

日本結晶成長学会第15代会長

藤岡 洋

東京大学生産技術研究所

 2022年4月1日より日本結晶成長学会の会長を仰せつかりました東京大学生産技術研究所の藤岡洋です。

 日本結晶成長学会は1974年の発足で、半世紀近い長い伝統を持つ学会です。本学会はこれまで、多くの先輩方のご尽力によって社会の変化とともに長足の発展を遂げてまいりました。 皆様もご存知の様に、その歴史の中には本学会の会員が決定的な貢献を成し遂げた青色LEDの開発など、輝かしい功績が多数刻まれています。

 結晶成長学は数学・物理・化学・生物学といった基礎科学や、電子工学・機械工学・化学工学・生命工学・医学といった沢山の応用学問分野と、多くの接点や境界領域を持ちます。また、化学産業・半導体産業・電子部品産業・自動車産業・医療機器産業といった結晶成長を利用する産業界からのニーズが刺激となって、新しい結晶成長技術が次々と開発されています。したがって、この学問領域の発展には多種多様なバックグラウンドを持つ人々が集い議論を深めていく場を提供することが重要です。結晶成長学会はこの様な学術交流や産学交流を支える組織としてその役割を積極的に果たしていくべきと考えています。

 最近のニュースには武力紛争や感染症蔓延といった暗い話題ばかりが目立ちます。その中でも特に、2019年にはじまったコロナウィルス禍は猛威をふるい続け、数年を経た現在でも、毎日多くの患者が発生しています。人と人との直接の会話は危険な行為とされ、学会活動分野でも、講演会や国内・国際会議が中止となるなど、多くの制約を受けました。この様なコミュニケーションの衰退は健全な学術発展にとって大きな障害となっています。一方、この厄災が引き起こした変化のうちの微かなブライトサイドとして、多くの人達がネット技術に慣れ親しみ、誰でもオンラインツールを利用して会合ができるようになったことが挙げられると思います。今後中長期的には、この病魔の影響は収束し、皆が再び、顔を突き合わせて結晶成長について熱く議論する日がくるとおもいます。ただ、獲得したオンライン利用技術のスキルは世界中の人々との安価な交流ツールとして、積極的に利用していくべきと思います。今後本学会では、対面の良さも大切にしながら、会合や情報発信、教育・啓蒙活動、会員間の交流などにIT技術の良い点も積極的に利用する新しい学会運営の方法を模索していきたいと考えています。

 我々が研究開発の対象とする結晶成長の現象自体は、0.1 nmオーダーの原子・分子レベルでの化学結合の組み換えがその本質ですが、組み上がった結晶の機能を通して、様々な応用分野がひろがり、ときには、環境問題や高齢化問題など未来社会が直面する諸問題に対する解決策へのヒントを提供することもあると思います。純粋な自然現象への興味を大切にする基礎分野の人々と、社会への貢献を第一と考える応用分野の人達が巧みに共存しているそのスペクトルの広さが結晶成長学会の魅力だと思います。結晶成長にかかわる仕事に携わっておられながらも、本学会をご存じない方々が、学術界にも産業界にも多くおられると思います。その様な皆さんに本学会の楽しさをお伝えすることによって、新しい仲間としてお迎えし、本学会の益々の発展を目指していきたいと考えています。会長任期の間、学会の円滑な運営と発展に微力ながら尽力させていただく所存ですが、浅学非才のため至らない点も多いかと思います。会員の皆様からの忌憚のないご意見・ご提言をいただけますようお願い申し上げて、就任の挨拶とさせていただきます。

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